NANIMONOさん
会社員(正社員) 20代前半 東京都杉並区和泉

はじめて広島を訪れたのは、内定をいただいてから二週間後だった。

世間は、新年を迎えたばかりで忙しなかった気がする。
東京駅を行き交う人々は三ヶ日だけで疲れが取れるはずもなく、浮かない表情で肩を並べていた。わたしは一人晴れた表情で、新尾道までの片道の新幹線のチケットを購入し、四年間お世話になった東京に別れを告げた。

「なんだか地元に似てる。」新尾道駅のホームに着いた時、それが一番初めの印象だった。
風が強く吹き荒れていて寒さこそ厳しかったが、一口空気を吸うと濁りのない新鮮な空気が全身に伝わっていくのを感じた。冷たく吹き荒れる風すら、自分の背中を押してくれているようにも思えた。

こうして、わたしの広島での新生活は小さく幕を開けた。

広島に来てまず驚いたのが、瀬戸内海がどこまでも穏やかだったこと。海といえば、江ノ島の海しか知らないわたしにとってはとても衝撃だった。それに加えて、県内でも地域によってオリジナルのお好み焼きが存在しているということにも驚いた。こんなにも、お好み焼きがソウルフードとして愛されているという事実に、今までどちらかというともんじゃ焼きを食べて育った私には、軽いカルチャーショックだった。その他にも、生活をしていく中で様々なはじめての気付きや知見があった。広島が、いろんなことを教えてくれたのだ。

そうこうしているうちに、広島での生活はあっという間に半年以上の月日が過ぎた。運転免許を持ち合わせていない私の主な移動手段は、バスと自転車。一番近いスーパーには、自転車で15分。最近は、この不便さもなんだか心地いい。
ネット通販が苦手でしばらく避け続けていたが、今ではネット通販もお手の物。苦手だった料理も、それなりに作れるようになった。そう、わたしの生活は180度変わった。

“ 正直どこでもよかった ”

東京じゃないどこかに身を置ければ。
正確には、“ 生きなきゃ “ ではなく “ 暮らさなきゃ “と思える場所であればどこでも。

穏やかな海と、青々と生茂る山と、ちょっとの心の余裕が生まれる場所。

ここは、そんな場所。

そしてなにより、ここで暮らすひとがすきだ。
ストレートな方言も、話す速度が速いところも、底無しに明るい人が多いのも、ぜんぶ。

動機は不純なくらいがちょうどいい。
透明度の高い水はもちろん美しいけど、時にその美しさが邪魔になる場合もある。移住を考えるときは、もっとだ。

わたしのように、無知でいて何も持ち合わせていなかったからこそ移住という選択ができたと思う。何も持ち合わせていないということは、背中に背負っている荷物が軽いのと同じ。身軽でいて、まだ容量があるということ。そしてこれから、何にでもなれるということでもある。

わたしは、ここで自分のペースでゆっくりと見つけていこうと思う。
答えを探すのには、ここはうってつけの場所だから。

ここまで書き終えたところで、ふと瀬戸内海の海を眺める。今日も瀬戸内海の海がどこまでも、どこまでも穏やかでよかった。

“ 生きなくたっていい。肩の力を抜いて、暮らしましょうよ。”

そう、伝えてくれている気がして。

移住のステキを
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