秋山 克美さん
東京都から移住 会社員 50代

わたしの広島県への移住は

わたしが最初に広島県に移住しようと思ったのは、高校時代進路を検討するために、大学案内を読んでいた時であった。

広島大学総合科学部。

ここはさまざまな分野の学問を、分野の垣根を越えて学ぶことができるのが特徴なので、いろいろ興味が広いわたしにはぴったりな学部に思えた。
しかしこの希望は、「広島なんて田舎はダメ、東京の大学にしなさい」という親の意向には逆らえず、東京の大学に進学した。

二度目の広島県への移住のチャンスは、思わぬ形でやってきた。

東京の大学を卒業後、東京の会社に就職し、希望どおりソフトウェアの研究開発部門に配属されたわたしは、広島のグループ会社から東京に出向していた男性と交際して、プロポーズされた。

東京には多くの友人がいて、先進的で刺激的な職場で楽しく働いていた。
彼と結婚した場合、わたしはどちらも失うことになる。しかし、彼の人柄に、生涯を共にしたいと思い、激しく迷った。

しかし調べると、地方のグループ会社からの出向者が東京で結婚後、元の会社に復帰するときに、配偶者も同じ会社に、東京にいた時と類似した職種で入社するケースがそれなりにあることを知った。
結婚しても、仕事も続けたいが子どももほしい。当時の職場には、育児しながら働く母親社員は誰もいなかったこともあって、東京よりは広島の方がこの点で、わたしのキャリアに対する希望を叶えることができそうに思え、彼と結婚することにした。

結婚直後はまだ東京にいたが、まだ、広島に行くための腹は正直言って、括れていなかった。
決心ができたのは、夫の東京出向が解除される三か月ほど前のことだ。

夫の先輩の結婚式に出席するため、わたしたち夫婦は広島を訪れた。

結婚式に出席後、わたしたちは路面電車に乗って、当時の広島市民球場に行った。路面電車を降りるときに、他の人とぶつかったら、「ごめんなさい」と謝られた。
東京ではぶつかってもお互い様、声を掛けることもなかったが、広島ではそうではない。ぶつかってしまったら謝るのが、人として正しい在り方ではないだろうか。

球場では、夫が愛してやまないカープの試合を見た。
とても観客とフィールドの距離が近くて、暖かい球場だと思った。何年かたったらきっと、わたしたちは子どもたちの手を引いて、ここでカープの試合を応援するようになるだろう、そんな姿を想像した。

試合を見た後は、二人で歩いて広島駅に戻ったら、あっという間に広島駅に着いた。
東京ならせいぜい二駅程度の距離に、広島市中心部がほぼおさまっている。
ここはコンパクトで住みやすい街だと思い、広島移住に腹を括った。

夫の先輩の結婚式の三か月後、わたしたちは広島に引っ越した。
住んでいたのは同じ2DKでも、通勤時間は東京時代の三分の一、家賃は三分の二に軽減された。

やがて子どもも産まれ、育休明けにはすんなりと自宅近くの認可保育園に入ることができた。
保育時間は長くはなかったが、職住接近のおかげでなんとかなった。

問題の育児と仕事の両立については、夫も家事育児に積極的だったことと、職場の皆様の理解のおかげで、なんとかITエンジニアとして働き続けることができた。
加えて雨の少ない瀬戸内気候は、明らかに保育園の送迎を楽にしてくれた。

三人の子どもたちも、立派にカープファンに育った。
家族で年に何度か広島市民球場に足を運び、カープの試合を観戦している。
2015年のセ・リーグ優勝の時は、東京の大学に進学した上の子までが、帰省して優勝パレードに参加した。
現在の広島市民球場にある平成たる募金のレリーフの右下の隅には、わたしと末っ子の姿がある。

子育て期も終盤に近付くと、広島の問題点も少しずつ見えてきた。

まず少子高齢化現象と、それに伴う中山間地域や島嶼部の過疎の進行。
都市部を除いては公立高校の定員減少が相次ぎ、それでもかなりの地域では、定員割れや定員ギリギリが常態化し、廃止された高校もある。

大学や就職市場でも、似たような構図であった。息子たちの大学のキャリアセンターのガイダンスでも、志の高い学生は首都圏で就職する、というニュアンスの発言を聞いた。
高い能力を発揮できる企業は、広島ではそう多くないということだ。

また、2014年の広島市土砂災害や2018年の西日本豪雨災害では多くの被害が出て、土砂災害危険個所の数が日本で一番多いことも知った。
男性の健康寿命は全国平均並みなのに、女性の健康寿命は全国平均を大きく下回り、ジェンダーギャップも大きい。

民間の立場から防災に寄与できないだろうかと、定年後の起業も視野に入れて、県立広島大学のビジネススクール(HBMS)に入学し、防災マーケティングについて研究した。
今は広島県の起業支援プログラム(PANORAMA)の支援を得て、新たな防災ビジネスについて検討を重ねる毎日である。

先日、上京して、会社のメンバーに近況を話したところ、若手社員から「東京で、そんなに新しいビジネスを支援してくれる制度は聞いたことがない」と羨ましがられた。

そう言われて気が付いたが、東京には地方よりはチャンスはいっぱいあるだろうけれど、情報も多すぎて埋もれてしまう。
高い給料や、高度な技術を発揮できる働き口を得たいならば、東京で働くのもいいだろう。
しかし、自分で社会の課題を見つけて解決することを考えるならば、社会課題をより身近に感じることができ、様々な社会課題を解決しようという仲間と容易につながれる、公的教育機関や制度のある広島は、良い環境である。

広島はほどよく都会であり、ほどよく田舎であり、都会と田舎がコンパクトにまとまっている日本の縮図である。
多くの企業が全国展開前のテストマーケティングに広島県を選ぶのは、広島が日本の縮図であるという特性が知られているからだろう。
ここには華やかな仕事や高度な技術を要する仕事は少ないかもしれないが、社会課題への距離が近く、自らそれらを解決しようとするためのエコシステムは整いつつある。

自分でやることを自ら見つけて、自分らしく生きたい。そんな願いをかなえるチャンスがある。
そこが広島県だと思う。

移住のステキを
共有するアワード