HIROBIRO.ひろしま移住ストーリー2021 〜先輩移住者からのメッセージ募集〜 HIROBIRO.ひろしま移住ストーリー2021 〜先輩移住者からのメッセージ募集〜

よう来ちゃった。

特別賞
ほんまともみさん
50代以上
新潟県から移住
経営者・役員

我が家はシングルファミリーである。

無謀にも、シングルファミリーのIターンをやってのけた。
実家がある新潟から離れての、Iターンである。たまたま仕事で1~2か月に1度出張で広島県に来ていたというだけで、直感で流れ着いたのが尾道。

我が家は思春期真っ盛りの息子2人と3人暮らし。シングルファミリーの結束力維持のコツとも言うべきか、我が家の大事な決め事の時は、必ず焼肉屋さんで家族会議を行う。肉を目の前にすると、気分よく話をしてくれる男子の習性をよく知っているからこそ。

昨年の11月末のこと。
「あのさぁ・・・これから広島での仕事が忙しくなりそうなんよ。だから3人で広島に引っ越しするとかどう?」
「いいよ。」
「・・・え!マジでいいの??」

善は急げ。早速2人とも広島県内にある学校を受験し、運よく2人とも合格してしまった。嬉しいけれど、もう後戻りはできない。そうだ、親として有言実行せねばならない。大きな背中を見せるのが親ってものだ。

尾道に知り合いもいなかったけれど、学校に通える範囲の候補地のひとつだった。観光でも来たことがない。経由したことが2度ほどあったか。しかしもう引っ越し3週間前である。入学式には間に合うように引っ越しすること。それが私のミッション。

仕事の合間をぬって尾道にたどり着いたのは夕暮れ時。
潮を含んだ少し冷たい風を感じながら、渡船が行き交う風景をぼーっと眺めていると、渡船から次々と出てくる自転車の大群に目を奪われた。堤防に座ってお菓子を食べながら帰宅前の時間を楽しんでいる女子校生たち。その傍らで、おじいさんたちがベンチに座ってビールを飲みながら談笑している。自転車で帰宅する常連たちにシャッターを閉めながら声をかけている笑顔の店主。お寺の鐘が鳴り、帰りの時刻を教えてくれた。

「ここにしよう。」

特別な理由はなかったけれど、日常が心地よかった。
ものの30分で決めてしまうのもどうかと思うけれど、ちょうど空き家となっていた家をリノベーションもしていいという約束で、安価で借りることもできて、建築デザインを本業とする身分としては願ったり叶ったり。ご縁ってそんなもの。

年度末も重なりギリギリまで仕事に追われ、引っ越し日も延期して、入学式の2日前に10時間運転してようやく引っ越しできた。引っ越して現在5か月となるが、家の中は引っ越してきた当時とほとんど変わっていない。昭和時代に建てられた家。前の家人たちが残していったシミも傷もそのまま。猫を行き来させていたであろう穴の開いた網戸も。でも少しずつ整えながら、だんだん我が家になってきている。

「あんたプロ顔負けじゃわ!」

何十年と放置されていた庭の松を、YouTube見ながら初めて自分で剪定していたら、フェンス越しに隣のおじいさんにべた褒めされた。炎天下の作業で疲れたので、板の間に寝そべって昼寝しようとしていたら、剪定ばさみと脚立を貸しに来てくれ、作業も手伝ってくれたので、結局昼寝もできずに夕方まで。おじいさんの話もいろいろ聞かせていただいて、すっかり仲良くなった。つかず離れずの、ちょうどいい距離感の近所づきあい。

勢いよく移住してきた割に、最も心配だったことは収入のこと。心配をかき消すように、コロナ禍ながら、いやコロナ禍だからこそ、距離関係なく遠方の仕事も入ってくるし、ありがたいことに地元の方からも声がかかるようになった。遠方の打合せはオンラインでもできるものの、時々行かざるを得ないこともある。もう自分のことは自分でできる年ごろとはいえ、息子たちに万が一の何かあったときにどうしようかと、彼らを置いて遠方に出張することを躊躇していた。

「なんならご飯もつくろうか?」
「なんならみんなでゲーム三昧してようか?(笑)」

私の不在中の緊急連絡先として、移住仲間の友達が快く引き受けてくれた。彼らとは、SHARE ONOMICHIという場所で出会った。移住仲間同士だからというお約束な理由ではなく、彼らとの何気ない時間は張りつめていた心を融かしてくれる。半世紀生きてきてなお、かけがえのない友達に出会えた。

移住前の生活は決して不満ではなかったが、自分でも、そして息子たちにも無理をさせていたように思う。尾道での3人の生活は、不思議と我が家の心地よいリズムをつくり、移住前よりも3人の笑顔が増えている。そして3人それぞれ大事なひとたちに出会わせてくれた。

尾道といえば?
しまなみ、山々、箱庭都市。唯一無二の風景が日常に溢れていることはもちろんだけれど、Google Mapに押したピンをたどりながら、このひと、あのひと、尾道の人たちの笑顔を思い浮かべながら、トコトコと、歩幅に合わせて会いに行くのがとっても楽しみな日常。心地よいご縁が数珠つなぎに繋がっていく。尾道には、自分らしい生き方を創り出そうという人たちのチャレンジを受け入れる土壌があるように感じる。

特別なことをしに移住しなくていい。
日常が楽しめる場所。それが尾道。

次は私が言う番。
「よう来ちゃったね~!」

受賞作品