イタリアで出会ったスペイン人と日本人の夫婦が築150年の古民家を改修してパン工房兼カフェを開店。 食へのこだわりと芸術性・国際性のある取組が地域内外に広がっている。
フランク・カステヤ/代田 京子さん
国際会計事務所や国際的なNPOで働いていた京子さんが、スペイン人でデザイナーのフランクさんと、2010年に世羅町へUターン。飲食業経験や開業資金がないところから、地元産の素材や伝統製法にこだわったパン工房兼カフェを始める。WWOOF(ウーフ)で国際的に交流しながら、次世代の働き方や暮らし方を提案するイベントを開催している。
京子さん、地元・世羅に移住された経緯を教えてください。
こんなに早くに戻ってくる予定ではなかったんです(笑)。世羅で生まれ育ったものの、子供時代はこんな田舎から早く出たい気持ちばかりでした。
東京での大学・大学院時代、留学やボランティア活動など様々な経験をしました。卒業後は国際会計事務所で働きましたが、ボランティア活動の充実感が忘れられず、環境問題に取り組むNPOに転職しました。国際会議の開催やCSRへの取組み、オーガニックマーケットの開催など、本当に楽しい仕事でした。
仕事柄、私の周りには、休日にわざわざ田舎へ農業体験をしに行く友人がたくさんいました。日本でも海外でも創造的で農的な暮らしを実践する人に多く出会いましたが、私には帰る田舎があることを羨ましがられ、田舎に生まれ育った私は「どういう生き方が出来るのだろう」と地元・世羅を客観的に捉えるようになっていきました。
イタリアで参加したWWOOF(ウーフ)という農業体験プログラムで、フランクと出会いました。出会って2か月で結婚し、ここ世羅へ移住しました。
スペイン人のフランクは、デザイナーとして常にパソコンに向き合う忙しい生活を送っていて、そういう生活から離れ、ゆっくりしようとの想いで参加していたようです。
カフェをやりたいねという話はお互いしていたので、私の地元・世羅で、こだわりのパン作りとカフェをはじめようと帰国しました。
フランクさん、初めて世羅を訪れていかがでしたか?
僕は、何かをするために日本を選んだのではなく、彼女がいたから。あとは、何とかなるんじゃないかという気持ちでした(笑)。
世羅に来た時には、まず、「なんでトイレにボタンがいっぱいあるの?」とびっくりしました(笑)。
ここには、何でもあります。空気や水の美味しさには感動しています。スペインではバレンシアの小さな村で暮らしていましたが、家も密集していて人の顔が見えて支え合う文化は心に根付いています。
でも故郷のバレンシアは、オレンジやお米の産地である意味瀬戸内と似ていますが、自然はこんなに近くになかったです。
京子さん、移住後すぐにカフェをつくられたのですか?
私は学生時代から「地球と調和した次世代の暮らし方」というものに関心がありましたし、夫は音楽大学を出てITやデザインを勉強していました。
お互い移住後の生活には漠然としたアイデアがあったのですが、最初の一年間は、仕事もなくそのアイデアを具現化するまでに時間がかかり、結婚生活が成り立つのか、とても不安でした。
収入を得るため、会計事務所での経験を活かしてコンサルでもやろうかと思いましたが、地元に需要はありませんでした。
その後、店舗用に築150年の古民家を借りて改修し、カフェ開店準備もすべて二人の手でやってきました。
幸い、実家が農家だったので、父の指導のもと農業を始め、今では小麦や野菜も栽培しています。
当初、お金を稼ぐと言う意味では大変でしたが、すぐそこの田畑で食べる物は採れるし、水も買う必要もない。生活のために必要な物は手の届くところに常にある、生きていけるという安心感は大きかったですね。
体力的にしんどいことがあったにしても、精神的にやめたいと思ったことはありません。本当に好きなことをやっているので、問題が起こっても ”次へのステップ” と前向きに捉えることができます。主人も私も本当に好きなことなら、迷いはない。衣食住が整っているという安心感も手伝ってか、「必ず道は開ける」という確かな自信があります。
パンに関するこだわりを教えてください。
まず、「おへそカフェ」というネーミングなのですが、身体の中心にあるという意味で、身体のエネルギーになるような、ちゃんとした食べ物を出したいという思いから選んだものです。
食材については、自分たちで作った小麦や米。それから近くで収穫したものを使っています。輸入しなきゃいけないものについても出来る限り近くから取り寄せるようにしてフードマイレージを少なくしています。可能な限りローカル&オーガニックの厳選素材にこだわってます。
製法については、フランクが伝統製法を独学して、アジアで初めてArtisan Baker Association(伝統パン職人協会)に加盟しました。ピザはスペイン製の石窯で焼いています。
2015年5月に高速道路のインターチェンジに道の駅世羅が開業し、そこにもパンを置かせていただいています。うれしいことにたくさん買っていただいていて、パン工房を拡大する必要性が出てきました。地域の方につないでいただいて、廃業したガソリンスタンドをパン工房に改修しています。
様々な取組をされているようですね。
地元の世羅や尾道などで、パンや食や関するイベントに参加したり、音楽や映画と暮らし方を考えるような催しを開催したりしています。
尾道には面白い取り組みをしている若い人が増えていて、仕事でもプライベートでもよく行きます。世羅にも少しずつ移住者が増えてきて、若い人同士がつながって「これからは地方だ」と自分のこだわりを追及しています。
WWOOFでは、ヨーロッパ、アメリカ、アジアなどからたくさんの方が来られます。中には帰国後に独立してカフェを立ち上げたり、農業を始めたりした方もいらっしゃいます。
それから、ネットで検索し、カフェやパン作りに興味をもたれて、見に来られる方も多いです。うちのパンは、市販の酵母なしで麦と水だけで作る珍しい製法なので、全国からパン作りの視察に多く来てもらっています。この場所が気に入った方が、居候状態で移住してくることもありますよ(笑)。
今後の目標やビジョンはありますか?
地元を元気にしたいです。人が増えてほしいです。
自分の生まれ育った町の保育所や小学校が無くなっていくのを見るのは寂しいです。昔の建物がどんどん取り壊されていくのですが、ヨーロッパの感覚では、古い家屋ほど価値があるので、もったいないと感じます。
世羅といえば農産物が有名ですが、たとえばデザイナーさんの移住を促すのも一案では。本当に美味しいので、訴求力のあるラベルや広報物があれば、もっと手にとっていただける。こんな田舎ですが、ネット環境は整っているので、仕事はしやすいのではないかと思います。
たとえば尾道では、デザイナーの移住者さんが世羅の農家をサポートしているケースもあるそうです。もし世羅にも移住していただければ、農家さんなどからの需要はあるのではないでしょうか。
世羅の冬は寒いので、その時期を利用して、1か月間休暇をとってスペインに帰ります。休暇は、私たちにとって新しいことを考え準備する時間でもあります。せっかく自分たちで好きなことを始めたので、自営業でしかできないライフスタイルを実現したいです。
移住検討者へメッセージをお願いします。
ぜひ、前向きな理由での移住をおすすめしたいです。
「今の生活がイヤ」というような後ろ向きの理由でなく、今いる環境でやるべき事をちゃんとこなせていて、「次のステップ」という経緯で移住ができれば、これまでの経験・技術・人脈などをフルに生かして新しい暮らしに挑戦できる。
そして、できれば移住先では、「自分が本当に好きなこと」を少しずつでも仕事にしていけるといいですね。途中であきらめたり考えが変わったりするのは、それが本当に好きではなかったということかもしれない。好きなことを実現したいという移住希望の方がいらしたら、できるかぎりご相談にのりますよ。
京子さんの一日の時間の使い方
フランクさんの一日の時間の使い方
二人の休日
終日 | パン・カフェ巡りや仕込み 2日間のうち フランクさんは,1日は仕込み カフェが豊富なとなりまちの尾道にはよく行きます。 |
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