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INTERVIEW

美術教員から画家へと転身。 里山で家族、地域、そして豊かな自然に見守られながら創作活動をしています。

筒井 尚美さん

東京→広島・安芸高田市
1999年
1976年 広島市出身 画家

しゃがんだ時の小さな背中、脚の丸み、好奇心でいっぱいの瞳…。筒井さんが描く子どもは、なんとも愛くるしい姿と表情を見せる。その作風は、母親ならではの優しい感性と、安芸高田市高宮の豊かな自然、そして温かく見守る家族と地域によって育まれている。

大学を卒業してUターンをし、教職員へ。2018年4月から画家として独立し里山で創作活動行なっている。

絵を描くことを志したきっかけは?

広島の高校を卒業して東京の美術大学に進みました。予備校や大学では描きたい意欲よりも、課題をこなすことや題材を見つけることで精一杯。何を、どう描きたいと考える余裕も機会もなく過ごしました。

大学3年の終わり、アメリカのサクラメント近郊に1ヶ月のホームステイに行きました。ステイ先の子どもをスケッチしていたら、子どもの好奇心旺盛な表情や体のシルエットがかわいらしくて、描くのがとても楽しかったんです。

当時アメリカで与えられたピンクや水色、レモンイエローといった蛍光色の画材を、私も取り入れてみました。それらの色は私の表現に合っていたようで、それまでにない新鮮な気持ちで夢中で制作しました。

帰国後、大学4年生になり、卒業制作はアメリカの思い出を描きました。色調も、それまでのものとはガラッと変わり、蛍光色を取り入れ、とにかく自分が感じた「アメリカ」というものを表現しようとキャンバスに向かいました。制作途中で次々とアイデアが浮かび、画面の隅々まで自分の思いを込めて描くことができ、「自分の思いを画面に描く楽しさ」を初めて実感しました。卒業後も描き続けていきたいと思えるきっかけになりました。

その後、広島市内ではなく高宮で働き始めたのですね

大学では美術の教員免許を取得していました。卒業後は広島へUターン。非常勤講師の話があった向原・高宮の中学校で美術教員として働き始めました。

生まれは広島市内でしたし、東京では100m置きにコンビニがあるような所に住んでいたのに、高宮はとても静かで、最初は戸惑いましたけれど…。


教員として生徒たちに伝えたかったのは、絵は自己表現なのだということです。「上手く描けなくてもいい、思いを表現しよう」ということを言い続けました。そして、同時に美術鑑賞では作者の思いを想像し、感じ取ることを大切にした授業づくりに取り組みました。

教員3年目の年に、地元のグループの集まりで知り合った僧侶の主人と結婚し、出産。まさか私がお寺に嫁ぐとは思いもよりませんでした。

家事、育児、お寺の仕事の合間に細々と制作を続けていました。時間が細切れでしか持てなかったので、準備も片付けも手間のかからない鉛筆デッサンで子ども達の遊ぶ姿を描いていました。「いつか絵の具を出して描けるようになるまで、腕が鈍ってしまわないように」と、そんな思いで続けていましたが、いつしか鉛筆で描くこと自体も楽しくなり、また、色のない白、黒、グレーの世界だからこその良さも感じるようになり、現在はアクリル絵の具を使って色のある絵を描いていますが、鉛筆デッサンでの作品も描き続けていこうと思っています。

モデルは自分の3人の子どもや地域の子どもたちです。地域の文化祭や小さな個展では、鉛筆描きの作品を多く出展していました。地域の方にはこの作風の方が親しまれています。

現在の活動は?

子ども達が成長し、少しずつ広島県美術展や二紀展へ出品するようになり、本格的に絵の具も使って描くようになりました。また、地域の美術館や中学校での非常勤講師の仕事なども始め、それまでの家庭と地域だけの世界から、徐々に活動の範囲も広がっていきました。

2018年3月、「アート移住セミナー」というイベントを通して、あるアートプロデューサーと知り合いました。その方に、「絵を仕事にしないか?」とのお誘いをいただきました。それまでどうにか時間をかき集めながら年に数枚描くのがやっとだった現状に、「もっと描いてもっと上手くなりたいのに時間がない」と悶々としていたちょうどその時だったので、あまり迷いなく、「画家」への転身を決意しました。教職への未練はありましたが、制作への思いの方が勝っていました。

その方のお誘いで広島市内のデパートの画廊で行われた、動物がテーマの絵画展に参加。
私は動物の絵も勿論ですが、動物と子ども達の触れ合う風景も多数出品しました。おそらくテーマが何であっても、私は自身の根底にある「子ども達の世界」という譲れないテーマを取り入れていくと思います。

その絵画展では11点が売れました。中には大きな50号サイズの作品を注文してくださった方もいました。

私をこの道へ誘ってくださったプロデューサーの方は、現在次々と若手の作家を世に送り出しておられます。絵を売って生計を立てていくとはどういうことか、何が必要なのか、そういうことから、指導してくださいます。描けばよいだけではなく、自分自身で売るためのマネージメントをしていかなければならないことを、先の絵画展への参加を通してして教えていただきました。仕事として成り立たせていくための、様々なマネージメントの仕事や絵作りは、それまで知らなかった初めての世界でもあるので不慣れで大変ですが、それを越えていかなければ画家として自立もしていけないのだということを実感中です。そういう意味では、やはり厳しい世界ではありますが、せっかく「描く」ということが仕事に出来たので、くじけず臨んでいきたいと思います。

高宮で制作活動をされるメリットは?

ここ高宮で制作活動をすることにはメリットがたくさんあります。

まず広い部屋が確保できること。今、この辺りは空き家が多く周囲を気にすることなく創作できるので、金属、彫刻、音楽などの作家さんにお勧めですね。それと高宮のような場所は地域のつながりが強いことが特徴。地域の文化祭やイベントに出展すると作品と顔を覚えてくださり、温かく応援してくださるようになります。私の場合もわざわざ広島市内まで絵画展を見に来てくださる方もいて、それはとても心強いんですよ。


それに緑、朝夕の光、花、夜空、紅葉、空…。豊かな自然には創作のヒントがたくさんあり、感性が磨かれることを感じます。東京に住んでいたままでは感じられない宝だと思っています。
またこうした里山では、美術教室が大変喜ばれます。私もずっと地域で子ども対象の絵画教室を行なっていますが、子どもたちや親御さんからとても喜ばれていますし、収入源としても心強いです。


これからも里山で育児、家事、お寺の嫁として手伝いをしながら画家として活動し、ここ高宮でアーティストを目指す人の指針になれればいいなと思っています。

平日

5:00 起床
6:00 家事、お寺の清掃、子ども達を起こす
7:30 子ども達を送り出し家事、雑用
10:00 創作活動
17:00 子ども達が帰宅。習い事の送り迎え、食事の用意
食事、入浴、家事
22:00 家事終了、くつろぐ
23:00 就寝

休日

7:00 起床
家事、お弁当作りなど
子供の部活の送迎、応援(長女は陸上部、次男はサッカー)
16:00 帰宅
時間を見つけて創作活動
夕食の準備、家事
19:30 食事
片づけ、団欒
23:00 就寝
筒井 尚美さん

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