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INTERVIEW

ポテンシャルのある瀬戸内の島との偶然の出会いで、東京でのハードワークから、島暮らしへ。空き家を再生し、人々が集う複合施設をオープン。

蛇草 孝介さん

東京都→江田島市
2021年3月
Kirikushi Coastal Village代表、空間デザイナー

東京で空間デザイナーとして活動しながら、コロナ禍を機に地方移住を意識するようになった蛇草さん。偶然の縁で江田島市の魅力を知り、地域おこし協力隊として移住。空き家の活用に取り組む中で、島が抱える課題の解決に少しでも役立てばと、自ら空き家を再生し、複合施設『Kirikushi Coastal Village』をオープンしました。地域の人を巻き込みながら、“楽しい”“面白い”と感じることに次々と挑戦しています。

コロナ禍を機に田舎暮らしや地方移住を意識。

大阪で生まれて、1歳から大学卒業までを広島で過ごしました。就職をきっかけに上京し、商業施設のプロデュースや、空間デザイナーとしても活動。大学卒業から37歳まで、東京には15年ほどいましたね。

以前から、いつかは温暖で海が近くにあるようなところで暮らしたいという思いはあったのですが、コロナ禍を機に、リモートワークや在宅ワークが当たり前になり、地方移住を具体的に意識するようになりました。
当時はハードワークだったので、「ちょっとゆっくりしたいな」という気持ちが強くなり、田舎暮らしっていいかも…と思うようになりました。

ふるさと回帰センターで偶然訪れたのが“広島”だった。

たまたま後輩が持っていた雑誌『TURNS』を読んで、有楽町に『ふるさと回帰センター』という場所があることを知り、まずは一度行ってみようと思い立ちました。
その時は何となく九州がいいなと考えていて、都市機能が充実していてご飯がおいしい福岡と、出張で何度も訪れていた宮崎の窓口を訪れるつもりでした。

ところが、コロナ禍で予約制になっていて窓口相談をすることができず…。ちょうど近くにいた相談員の森上さんが、「広島なら予約いりませんよ!」と声をかけてくれたんです。

相談員さんの提案で、片道交通費支援制度を活用して江田島へ。

「広島はなんか違う。もっとガラッと環境を変えたいんです」という話をしたら、「島はどうですか?」と提案してくれて。しまなみ海道をサイクリングしたことはあったので、尾道の島には良いイメージはあったのですが、利便性や仕事への不安を感じてしまいました。

すると森上さんは「江田島って知ってます? 片道交通費支援制度を活用して行ってみたらどうですか? 現地のコーディネーターも紹介します」とおすすめしてくれたんです。

名前は知っているけど、どんな場所かは知らなかった江田島が、思っていた以上に広島市内に近く、アクセスもそれほど悪くないということを初めて知り、翌月には妻と現地を訪れていました。

広島市内から30分の便利さと島ならではの空気感が魅力。

実際に行ってみると、広島市内からフェリーで30分移動するだけで、空気感がガラッと変わるんです。都心部から1時間以内の移動で、これほど環境が変わる場所ってなかなかないよなと思ったのが最初の印象。

もっと観光地化されていてもおかしくなさそうなのに、まだまだ未開発な部分が多そうだなというのも好印象でした。何かを始めるならポテンシャルがありそうだし、もしもの場合は広島市内に働きに行くこともできる。広島市内はなじみのある場所なので、心強いなとも思いました。

地域おこし協力隊の募集が移住への大きな一歩に。

移住後の仕事については、具体的な計画があったわけではありませんでした。移住してリモートワークをさせてもらえるかどうかも分からなかったし、現場に行く必要がある仕事なので、そのまま続けるのは厳しいだろうと考えていました。

現地を訪れたときに江田島市役所で就職について相談をしたのですが、江田島でできる仕事は一次産業しかありませんでした。
移住はしたいけど仕事への不安が解消できないまま悩んでいたとき、江田島市役所から空き家の活用をミッションにした地域おこし協力隊募集の知らせが届いたんです。それなら自分のキャリアを活かせそうだし、「ぜひ応募させてください!」と答えました。

実は、2020年の秋に結婚したばかりで、東京でには持ち家もありました。
妻は新潟出身なので広島に土地勘がないし、知り合いも全然いない。
さらに僕の仕事も決まっていない状況で、最初は移住を大反対されました。
一緒に江田島を訪れた時も、「まぁ景色はいいけど…」くらいの感じでしたね。

何とか妻を説得し、仕事が決まったら移住しても良いということになったので、地域おこし協力隊の仕事は本当に大きなきっかけになりました。
募集は一人だったので、受かるかどうか不安でしたが、無事に合格し、すぐに退職と家の売却を手続き。

2021年3月に移住しました。

地域おこし協力隊の活動を通して空き家の活用に挑戦。

地域おこし協力隊の活動として、まずは空き家の全戸調査をしました。実際に学生たちと空き家をリノベーションしたり、空き家バンクの運営をしたり、登録件数を増やすために啓発活動などにも取り組みました。

島中を調査していたら、廃墟とか荒廃した村があちこちにありました。「夜は超怖いだろうな」「もはや心霊スポットでしかないじゃん」と衝撃を受けるような場所も多く、空き家バンクに登録するだけでは問題解決できないような気がしてきたんです。

何をしたら良いのか具体的な方法は分からないけど、楽しい場所、人が集まる場所、にぎわいを生み出すことが自分にもできないかと考えるように。江田島で空き家をリノベーションして住む、もしくは商いをする。それを具体的にイメージできるような場所を作りたいと考えるようになりました。

切串エリアの物件を改修し、複合施設に生まれ変わらせる。

港が近いのに全然発展していないのはもったいないなと感じていた切串エリアで、たまたま物件を見つけたので、自分でプロジェクトを立ち上げようと決意。増築を重ねて3軒の建物が一つになったユニークな物件で、「なんかいいな!」という直感だけで購入してしまいました。

自分でできるところはDIYでどうにかしつつ、クラウドファンディングで資金を調達しながら約1年かけてリノベーションして完成したのが、『Kirikushi Coastal Village』。カフェ、鮮魚店、まつげサロン、自転車屋などが集まった複合施設です。

ご縁をつなぎながら、フリーランスとして活動

クラウドファンディングに挑戦するにあたり、「一緒に何かやりませんか?」とテナントを募集してみたら、応募どころか問い合わせも全然なし。僕自身の認知度も低いし、切串エリアの人気もいまいちだったので、外から来た僕が話をしても、あまり伝わらないんですよ。自分が動かないとダメなんだ、ということを痛感しました。

まずは一部分をカフェスペースとして整えて、毎月のようにマルシェやライブなどのイベントを実施。そこから少しずつ周りに認知されていき、テナントに入りたいと興味を持ってくれる人が出てきたり、メディアでも取り上げられたりするようになり、良いサイクルが生まれてきたんです。

入居希望者が決まったら一緒に改装するという形で、現在は7〜8組のテナントが入っています。全体としては未完成なので、まだまだ途中段階です。
2023年には「島の中と外を繋ぐ空き家”HUBSPOT”計画」として、ひろしま里山グッドアワードを受賞。自分の取り組みが形として認められたというのはうれしかったですね。

地元の人たちとの交流が生まれ、少しずつ輪が広がっていく。

切串エリアにはほとんど店がないので、「こんなところで人は集まらないよ」「商売ができる場所じゃないよ」と言われることも多く、焦りもありました。

そんな中でも協力してくれる人がいたことがありがたかったです。地域でお祭りをやっているメンバーと知り合ったことから地元の人たちとの交流が生まれて、DIYを手伝ってくれたり、ここで一緒に餅つきをしたり、少しずつ輪が広がっていく。自分自身が動いて、地域に根付いて、継続することが大切だということを実感しました。

移住当初は中町エリアにあるペット可のアパートに住んでいたのですが、『Kirikushi Coastal Village』ができてから、自宅も切串エリアに引っ越しました。生活の拠点を置いたことで、さらに地元の人たちとの距離が近づきましたね。

仕事も“楽しい”と感じられるバランスを意識。

地域おこし協力隊は副業可だったので、空間デザインの仕事もフリーランスで続けていました。

都内にいる時は、ハードを作り、引き渡しまでが仕事の中で、江田島ではその後のソフト面、運用などにも関わっていきたいという思いがあり、KIRIKUSHI COASTAL VIILAGEではそれを実現することができました。
運用する側になったことで、視点もだいぶ変わりました。

ありがたいことに少しずつ仕事が増えていて、月に1〜2回は東京、大阪、名古屋あたりに出張で出かけることもあります。島での暮らしはもちろんいいけど、たまには外に出て刺激を受けることも必要。
ただし、「楽しい」と感じられるくらいの仕事量に抑えるようにしています。ハードワークになるとここにきた意味がなくなるので、バランスを意識していますね。

移住した当初は、夫婦で一緒にいる時間が長くなり、けんかもたくさんしました。今は妻も広島市内の会社に就職し、ほぼフルリモートで働いています。

妻には友人知人がいないことが心配でしたが、ここでは家族ぐるみの付き合いが多いんですよね。友人たちとバーベキューをしたり、SUPをしたり、釣りをしたり。島ならではの趣味を夫婦ともに楽しんでいます。

空き家の活用や農業など、やりたいことはたくさん。

『Kirikushi Coastal Village』の敷地内にデッキを作りたいし、隣の空き家を改装して古民家宿にしたいと考えています。せっかくなので、海の近くでも何かやりたいと思っていて、空き家を活用して宿にし、島をぐるっと周遊してもらえるような仕掛けを作りたいですね。

大崎下島の農家さんに教わりながら、耕作放棄地を活用してレモンを育てています。江田島にビールの醸造所があるので、島のレモンを使って地ビールが作れたら面白くないですか? 宿に泊まったお客さんのお土産になるし、単にクラフトビールを作ってみたいという思いもあります。今のところ全く儲からなさそうなんですけど(笑)。

地域おこし協力隊として江田島に来てからは、「空間デザイナー以外にできることなんてあるのか?」
と自問自答しながら、自分にできることを模索した3年間でした。

これはかなり貴重な経験で、その時間があったからこそ、チャレンジに対するハードルがめちゃくちゃ低くなりました。
やってみたいと思ったことはやってみよう、失敗したって別に良いんだと思えるようになった。

『Kirikushi Coastal Village』という場を作ったことで、何にでも挑戦できるフィールドができたし、
コラボレーションしたいプロフェッショナルな人たちもが周りにたくさんいます。

何かやろうと思ったら手伝ってくれる人がいることも心強いですね。

年齢や経験を重ねると、自然とプライドが高くなってしまうと思うんです。自分もそうで、社内のポジションが上がるにつれて、知らないうちに肩書きやプライドが自分の支えみたいになっていました。
江田島では僕のことを誰も知らないから、「謎のおじさんが地域に入ってきた」という感じ。支えにしていたものを失って、自分に何ができるんだろうと葛藤したおかげで、すごく大切なことに気づいたんです。肩書きや損得ではなく、人と人として関われるようになったら、人づきあいがぐっと楽になりましたね。

やりたいことはたくさんあるけど、それを想いに共感してくれる人と一緒にやるということが楽しいのかもしれません。いろんな人たちと新しいことに挑戦するのはめちゃくちゃ面白い!
地域おこし協力隊を卒業して、一年弱。ようやくスタートラインに立ったところなので、少しずつ輪が広がっていけば良いですね。

仕事の日

8:00 起床
8:30 ペットの世話 準備
9:00 デスクワーク
12:00 昼食
13:00 villageで作業or畑
18:00 夕食
19:00 自由時間
24:00 就寝

休みの日

8:00 起床
8:30 ペットの世話 準備
9:00 SUP
12:00 ランチ
14:00 帰宅 シャワー 部屋の片づけ
16:00 買い出し
18:00 友達とBBQ
22:00 帰宅 就寝準備
24:00 就寝
蛇草 孝介さん

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