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INTERVIEW

「日本で暮らしたい」という娘の一言をきっかけに、家族でスペインから移住。三次市にある古民家を改修し、自然の流れに沿った自分らしい暮らしを実現。

柄 洋恵さん

広島県→スペイン→三次市
2019年3月
三次市移住コーディネーター

スペイン人の夫、娘とともにバルセロナで暮らしていた柄さん。娘の希望を叶えるため、広島県北部の三次市にある、空き家だった母の生家へと一家そろって移住しました。華やかでありながら目まぐるしい都会の暮らしから一変し、鳥の鳴き声や朝陽とともに目覚めて農作業をする日々。その後、縁があって三次市移住コーディネーターに着任しました。

ありのままの自分で過ごせる田舎での暮らしを大切にしながら、国籍を問わず市外から訪れる人が“その人らしく”幸せに暮らせるよう、アドバイス&サポートをしています。

広島を離れ、カナダ留学を経てスペインへ。

生まれは広島県安芸津町ですが、2歳までだったので記憶はありません。父の仕事の関係で幼少期から2、3年おきに中国地方を転々としていました。中学から20代初めまでを福山市で過ごし、自分で貯めた資金を元手に語学留学のためカナダの西海岸・バンクーバーへ。

修了後はトロントのカレッジに入学するため東海岸へ移動し、カレッジ卒業後は現地の旅行会社でツアーオペレーターとして働いていました。

当時、会社主催のパーティーでとある女性と話したことから、スペインに旅行することになりました。そこで将来の夫となる男性と出会い、長い遠距離恋愛の末にスペインへ移り住むことを決意。結婚後、愛娘の恵里香を授かりました。

スペインではバルセロナ空港のスタッフとして働いていましたが、出産後は専業主婦になり子育てに従事。恵里香がある程度成長してからは、通訳、翻訳、会議のMC、日本企業の訪問アテンド、観光客向けのツアーガイドなどいろんな経験をしました。自営業なので、子育てを優先しながら空いている時間に出来ることは色々とやってみようという感じでしたね。

娘の一言をきっかけに、猛スピードで日本への移住を実現。

三次市へ移住するきっかけとなったのは、娘の希望です。中学2年生の秋頃、娘が「日本で暮らしてみたい」と話してくれ、私はすぐに賛成しました。なぜなら私も長い海外生活を経て日本の良さをしみじみ感じていたから。

夫は頭を悩ませたようですが、最終的には「人生は一回きりだからやってみるか」と賛成してくれました。

移住先を三次市に決めたのは、母の生家である古民家があったからです。幼い頃は春休みや夏休みの度に訪れ、おいしいお米や放し飼いの鶏の卵、たけのこ、山菜、きのこをたらふく食べて、2人の弟たちと野山を大笑いしながら走り回っていました。子どもの頃から美しい田舎の風景や食べ物に魅力を感じ「家に帰りたくない。ここにずっといたい」と駄々をこねるほどでした。

恵里香が生まれてからは、母(福山市在住)の多大なる協力もあり、桜の時期には日本に帰り、実家にステイさせてもらっていました。幼子と外国人の夫を連れて1ヶ月間も滞在するのは本当に大変だっただろうと思いますが、そんな苦労は微塵も見せず、毎年笑顔で迎えてくれました。

美味しい食事を作ってくれたり、日本の運転免許証を持っていなかった私たちのために車であちこち連れて行ってくれたり…今考えても感謝しかなく、母にはほんとに頭が上がりません(笑)。

春休みの時期には、三次市の祖父母の古民家まで一緒に行き、春の日差し、つくしや花の美しさ、“里の香り”ともいえる自然から醸し出される香りを楽しみました。

五感が研ぎ澄まされる感覚がとても新鮮で、恵里香の名前もそこから取っています。幼い恵里香も、虫やカエルを追いかけては無邪気に遊んでいました。

三次市の古民家はすぐに住める状態ではなかったのですが、移住の際には三次市のUターン補助金制度を活用し、家の動線のみリフォームすることができました。

当時は自分が移住コーディネーターとして働くことになるとは夢にも思っていませんでしたが、人生って本当に面白いですね(笑)。

最初は恵里香が高校に入学するタイミングで日本へ移住しようと考えていましたが、恵里香の日本の友人が広島県立の中高一貫校に通っていたこともあり、「中高一貫校なら、中学3年生から編入できるかも?」とリサーチ。

進級の直前になって学校側から欠員が出たという連絡をもらいました。2月上旬にあわてて願書を提出。3月中旬の編入試験を受けるため母娘で来日し、受験、合格、入学・寮生活への準備など、激しいスピードで生活が一変することになりました。

スペインで飼っていた猫に検疫後の待機期間があったので、夫は数ヶカ月後に猫のタマちゃんを連れて日本へ到着しました。

幼い頃から日本文化に触れ、本で読んだ日本の高校生活に憧れ。

恵里香さん:
小学校からバルセロナ日本人学校に通っていたので、教育は日本語で受けていました。周りは日本人の学生ばかりで、掃除の時間や運動会があって、本当に日本の学校みたいな感じ。
学校の図書室で日本の本をいろいろと読むうちに、「私も部活してみたいなぁ」とか「日本の高校生活っていいなぁ」と思うようになったんです。

スペインには部活の文化がないので、ちょっとずつ憧れが積もっていきました。
自分の性格的に、スペイン人の友だちと過ごす時よりも、日本人の友だちといる時の方がオープンになれるというか…、しっくりくるような気がしていて。バルセロナ日本人学校は中学3年までしかないから「それなら日本に行きたい!」と話しました。

自然の流れに沿って生活することの幸せを実感。

恵里香の言葉をきっかけに、私も新たな人生を始めることにワクワクし始めました。それまでずっと時計を見ながら突っ走ってきたし、スペインでは大きな翻訳プロジェクトを一任され、仕事に忙殺されている毎日だったので、日本に移住後は数ヶ月だけでも仕事の事は考えず、「人生の休憩期間。時計を見ない生活」を楽しもうと決めていました。

三次市に移住したての頃は、早朝に鳥の鳴き声で目覚め、朝陽を浴びて、マイペースに家の畑で作業をする日々。三和図書館で親切な司書さんから薦めてもらった自然農法の本を参考に、毎日少しずつ草を刈り、土を耕すという生活を生まれて初めて体験しました。

「おなかが空いたな」と思ったらしばらく休憩して、動きたくなったらまた作業。何も考えず、まるで瞑想でもしているかのごとく無心で畑仕事をしていたらあっという間に日が暮れます。自然の流れに沿って生活することが、涙が出るほど心地よく、幸せってこういうことなんだと感じました。

週末は寮生活をする恵里香を迎えに行き、家族みんなで自然の恵に感謝しながら安心安全な野菜を食べる。これこそが、本当に贅沢な暮らしです。虫食いの穴だらけのものや変わった形のもの、実がならないものもあったり…。毎年が“農業1年生”です(笑)。それもまた楽しくて仕方ないんですけどね~(笑)。

生活の利便性と自然体でいられる心地よさが両立できる場所。

バルセロナはかなりの都会で、翻訳の仕事などはマンションの一室に一人でこもってしていました。三次市に来てからは、自然と共生する環境で、自分自身に生命力がみなぎるという感覚を強く持つようになりました。

これまでの生き方も楽しかったし好きだったけど、ここでは心がリラックスした“素の自分”で過ごせる。自然とニコニコ笑顔になってましたね。

三次市はたしかに田舎なんだけど、ある程度の都市機能が充実しているので本当に住みやすいなぁと思っています。中心地には、いくつかの大型スーパーやドラッグストアのほかに、ニトリ、MUJI、ユニクロなど大手メーカーもあって、多くを望まない限りは買い物にも困りません。万が一足らないものがあればネットで買えます。

生活の利便性と自然の中で五感を駆使しながら心地よく居られること、その二つを両立できるのが私には大きな喜びです。渋滞やラッシュアワーとは無縁で、時間の無駄もなくなりました。都会では遅刻しないように常に気を遣い、必要以上に余裕を持って出かけたり、なんだか時間の心配ばかりしていたかも。今思えば、意味のない心配でした。

あと、三次市は住んでいる人が穏やかで、優しい人が非常に多いです。考えようによってはお節介と言える人もいるかもしれませんけど…。つながりって本当に温かいし、ありがたいです。

暮らしの困りごとは、ご近所さんや友人らに助けてもらいながら解決。

私が畑にいたり、夫が軒下のテーブルで日本語の勉強をしていたら、自然と近所の方ともコミュニケーションをとるようになりました。
外国から来たというのが印象的だったようで、時間を置かずご近所さんも様子伺いを兼ねて野菜を持ってきてくれるようになりました。ご近所さんとのかかわり方も、特に何かを意識したということはなく、ありのままでしたね。

また、地域の方と関わるうちに、実はそのおじいちゃんが何かのプロフェッショナルだったり、おばあちゃんがアーティストだったり、すごい才能を持っている人が静かに存在しているんです。これには驚きました。

例えば農作業で使うカマの刃がこぼれて使えなくなったのを近所のおじさんに偶然見せたら、数時間で新品みたいにして返してくれたことがありました。新品を買ってくれたのかと見違えるほど。

分からないことは素直に聞いて、頼って、みなさんに助けられながら今の私たちがいます。

その他に、野菜作りのプロ、かご編みのプロ、漬物やみそづくりのプロ、陶芸のプロ、田んぼのプロなど、職人技を持つ人がたくさんいるんです。若い世代では、全国にファンがいるガラス作家や金属作家がいたりグルテンフリーやヴィーガン対応のおしゃれなカフェもあります。

どこにいても安心できるのは、三次という帰る場所があるから。

恵里香さん:
私は中学への編入学とともに新しく寮生活がスタート。すでにグループができあがっているし、独特の空気感とか文化に最初はとまどうところもあって、少し孤独を感じたりすることもありました。
でも少しずつ打ち解けていって、進学校なので勉強はかなりハードだったけど、厳しくも楽しい中学・高校生活を送れました。

憧れだった部活にも挑戦。テニス部に入部し、仲間もみんな熱くて、笑ったり涙したり。青春が詰まっていましたね(笑)。

卒業後はスペインの大学に進学。現在は休学中で、世界周遊の大型クルーズ「ピースボート」の言語サポートスタッフとして数ヶ月間を海の上で過ごしました。

日本での暮らしは戸惑いも多かったけど、少しずつ慣れていって、今ではすごく安心できる場所になっています。大学進学のためにスペインに行ったり、ピースボートで海外を旅しても、親がいて、私を明るく笑顔で受け入れてくれる場所があるというだけで心から安心。三次に帰ってくると、景色も空気も水もキレイだから、気分がリフレッシュして本当に癒されています。私にとって一番ホッとできる場所ですね。

地域に貢献するため、移住コーディネーターとして活動。

当時は仕事を探すつもりはなかったのですが、「みよしまちづくりセンター」で毎週提供されている無料の日本語教室に夫が通っていたこともあり、そこの方に「三次市役所の市民課で人を探しているんだけど、受けてみたら?」とお声掛けをいただいて。何しろ人生の休憩期間を味わいたかったので、やんわりお断りしようと思ったのですが、「すごく合ってると思うよ~!」と、満面の笑みで薦めてくれました。

その笑顔に負けてしまい、あれよあれよというまにハローワークに行き、即市役所で面接を受けることになり、気づいたら翌週から市民課で働いていました(笑)。

1年ちょっと経った頃、三次市に新しく設けられた移住コーディネーターという新ポストに応募。お陰様で2021年からは、移住コーディネーターとして活動しています。

昔から転校が多く、故郷という定義が今ひとつ分かりませんでした。これまでの人生で17回の引っ越しを経験しましたが、三次市の住みやすさはピカイチで、ここが私の故郷だなと感じています。三次や地域のお役に立てないかと常々思っていた矢先に、新ポストの募集があったのです。

地方はどこも同じですが三次市にも空き家が多く、朽ちていく空き家を目にする度に「もったいないな…」「家を生き返らす事ができないのかな」と思っていました。古いものを廃れさせるんじゃなく、循環させたいという思いです。

外からやってきた人が国籍問わず、その人らしく幸せに暮らせるように、ほんの少しでもお手伝いできたらな、という思いで移住コーディネーターとして活動していますが、この仕事が本当に好きです。

自由を満喫しながら、自然の中で五感が喜ぶ暮らし。

自然の中に身を置くと、気持ちもふわ~っと軽くなり「何も飾らなくていいんだ」と思えるんです。どんな格好をしていようが、髪が乱れていようが、そのままを受け入れてくれる気がして。

そして、田舎の魅力はなんといっても家と家の間が離れていることですかね~。夜に掃除機をかけようが、大声で歌をうたおうが、ダンスを踊ろうが、猫のたまちゃんがギャーギャー騒ごうが、誰にも迷惑がかからない(笑)。

草刈りは大変だけど、以前より体力はついた気がします。本当に大変ですけどね!スローライフという言葉はいったい誰が言い始めたのか…。田舎暮らしはいつも忙しいので、体力がつくはずです(笑)。

都会にいた時は、周囲に香水や柔軟剤、排気ガスの匂いが当たり前にありましたが三次市で暮らすようになり、自然の香りを知ってしまったら科学的な匂いがものすごく苦手になってしまいました。もう都会には住めません。

五感が発達して、さらに第六感もするどくなりましたね。人工的な音がないから、虫たちの鳴き声で季節の移ろいを感じたり、鹿の鳴き声やフクロウ、キジの声もすぐに覚えました。余計な情報もあんまり入らないから、直感もわきやすいのでしょうか。

そしてもう一つ素晴らしい点は、地下120mの水を汲み上げているから、蛇口をひねったらおいしい地下水が出ること。お茶やコーヒーを淹れても、料理に使ってもおいしい。自然の恵みに感謝です。


この先、この古民家をどう維持していくのかは我々の課題ですが、できる限り大切にしていきたいと思っています。

仕事の日

6:00 起床、整理整頓、ヨガ、ゆっくり朝ご飯
7:50 車で出勤
8:30 始業
17:15 業務終了(残務があるときは多少居残り)
18:30 買い物、帰宅、入浴
20:00 料理、夕食を楽しむ
フリータイム(家族との会話、ペット、たまにネットサーフィン)
23:30 読書&就寝

休みの日

7:30 起床
8:00 ヨガ、料理、草刈り、掃除、読書、実家もしくは友人らと会う
19:00 帰宅、料理、夕食
23:30 読書&就寝
柄(つか) 洋恵さん

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